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授業レポート

授業風景

サイマル・アカデミーの通訳者養成コースでは、「通訳コース」と「会議通訳コース」の2コースを設置。第一線で活躍する実績豊富な現役通訳者がニーズ別・目的別のプロ育成を行っている。グループ会社との密な連携により、キャリア形成も全面サポート。これまでに多くの通訳者がデビューしている。

CEOのスピーチを使い、初見で逐次通訳に挑む

「通訳Ⅲ」は社内通訳・ビジネス通訳に必要な技術と知識を習得するクラス。教材はIRミーティングやシンポジウム、記者会見のスピーチなどを使用し、逐次通訳演習が行われる。講師の高松珠子先生はバイリンガルであり、「受講生に英語の環境を提供したい」との考えのもと、英語で指導するという。

授業が始まると、先生は「ぜひ読んでほしい」と1冊の洋書を紹介する。その中に書かれてある「1万時間ルール」(何ごとも1万時間練習すれば上手くなる)について説き、「量に勝る勉強はありません」と強調。その流れで、英語の自習教材としてアメリカの政治ドラマを挙げた。

「インテリたちの話す英語は難しいですが、現場で通訳する英語も似たようなもの。英語字幕を出しながら見てくださいね」
その口調はエネルギッシュでスピーディ。先生の英語を聞いているだけで、いいウォーミングアップになりそうだ。

この日の教材は、グローバル企業CEOによる英語の講演。事前に配布された講演概要と単語リストをもとに、受講生たちは準備をして授業に臨んでいる。先生の指示のもと、受講生たちは2人組になり、残った1人が先生とペアを組む。「私が合図するまで、一方が通訳、一方が聞き役になってください」。少し変わった逐次通訳演習が始まった。

1対1の個別指導でじっくり親身のアドバイス

通訳担当がヘッドセットをつけ、メモを取りながら数センテンスを聞いた後、訳出する。
ある程度のボリュームをこなしたところで先生が合図し、聞き役が意見や感想をフィードバック。それが済んだら相手を変え、役割を交代し、続きを通訳していく。
先生と組む番になると、どの受講生もさすがに緊張した表情。その硬さをほぐすかのように、先生はうなずいたり励ましたりしながら耳を傾け、訳出を終えると「とてもいいです」「素晴らしい!」とまず褒める。気になった点を指摘し、解決法をアドバイスするのはその後だ。

「◯◯さんの文章力はファンタスティック。でも大きな会場の最前列の人にだけ通訳しているような感じなので、もっと声を大きくして。前に教えたように、横隔膜を使って発声する練習をしましょう」

受講生たちから「未だに英語が音にしか聞こえない」「理解が不十分だから、訳出にメリハリをつけられないのかも」などと打ち明けられれば、「英語が意味を帯びて聞こえてくるようにするには、もっと背景知識を勉強するか、もっと英語を聞いて耳を鍛えるか、そのどちらかしかない」「内容が取れていないわけじゃなく、話者を代弁する気持ちが足りない。『訴える力』を磨くようにして」などと親身になって応じる。1対1の密なやりとりは、さながら個人レッスンだ。

全員の個別チェックが済むと、ペアになっての演習は終了。先生は「企業独特の用語はいったんそのままの言葉を使い、あとで『つまり~』と説明するのがベスト」などいくつか訳出のテクニックを説き、こうまとめた。

「現場では、英語ができる人から『通訳のほうがわかりやすかった』と褒めていただくことがあります。なぜわかりやすいか。通訳は聞いたことを消化し、整理して話しているからです。大事なのは、コンセプトを捉えて意味が通るように訳すことですよ(You have to make sense)」

最後に各自のパフォーマンスを録音するため、この日扱った範囲を全員で再通訳。25分ほどですべて訳出すると、先生は「お疲れさま、ありがとう」とねぎらいの言葉をかけ、授業を終えた。

印象に残ったのは、高松先生のパワフルで熱意あふれる指導。聞くものの注意を引かずにはおかないトッププロの「話力」もまた、受講生たちにとっての良いお手本となるはずだ。

『通訳者・翻訳者になる本2017』(イカロス出版)より転載

高松 珠子

通訳者養成コース講師

生後すぐ渡欧し、高校までを米国で過ごす。米オーバリン大学を卒業後、クラシック音楽関係の米系企業の日本駐在などを経て、フリーランス通訳者に。日本外国特派員協会の記者会見通訳を多数担当している。