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第4回 温度差

「日本人意識に温度差」― サッカー・ワールドカップが開催されたブラジルについての「日系社会の今」と題する特集記事(読売新聞2014年6月12日)の見出しです。このヘッドラインが言わんとしていることは分かります。ブラジルに住む日系人の間の意識の違いです。 「差」ではあっても、もちろん「温度」についてではありません。どうして「温度差」という言葉を使うのでしょう。

 

これ以外に最近目にした用例をいくつか上げてみましょう。「防衛協力ガイドラインの見直しを巡り、日米に温度差がある」、「ASEAN諸国には対中姿勢に温度差がある」、「ウクライナ支援についてG20(先進20ヶ国・地域財務省・中央銀行総裁会議)は協調を演出したが、各国間の温度差は残る」。

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この言い方がこういうコンテクストで使われるようになったのは、そう古いことではありません。私の通訳者としての経験では少なくても1990年代以降だと思います。ところが最近ではしばしば使われているのを目にします。それだけ便利なのでしょう。しかし何についての違いなのかははっきりしません。「温度差」というのは季節や気候の変化に敏感な日本人らしい表現だと思いますが、物事を明瞭にすることを旨とする英語に訳すときには「なんの差」なのかを明示する必要があります。この点が英語にする場合の課題です。

コンテクストが必要なので、センテンス単位で考えてみましょう。

「ASEAN諸国には対中姿勢に温度差がある」― さあ、あなたならどう英語に訳しますか?
 

第3回「こまめに」の訳例

前回の「こまめに水分を補給する」の英訳の私案です。「こまめに」という副詞を英語にしようとすると、regularly, often, frequently などが思い浮かびますが、この際センテンス全体として捉えて;

“Don’t forget to take plenty of water (to prevent heat stroke).”

というのはいかがでしょうか。文として意味は十分伝わると思います。もちろん;

“Let’s take/drink water regularly”

でもいいですが、上の方が口語的で気分(スタイル)もあっているように思います。

 

※本記事は、2014年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

インターネット講座「通訳のための英語表現法」

特別セミナー「通訳者・翻訳者への道」