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第11回「~を中心に」

今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「~を中心に」です。

色んな場面で使われる言葉だからこそ、その時々で訳し方を変えたくなります。あなたなら英語でどのように表現しますか?

日本語での使用例

(1) 日本の政治・経済は東京を中心に回っている。

(2) NGOの件を中心に話を進めたい。

(3) 先進諸国を中心に、保護主義の圧力が著しく高まっている。

(4) まず総理大臣を中心とする強力な本部を内閣に作る。

(5) 若年層を中心に、近年政治への不信が拡大している。

(6) 維新は政治塾の塾生を中心に候補者の公募を始める。

訳例

(1)-a  Tokyo has always been the center of Japan's political and economic activities.

(1)-b  Political and economic activities in Japan have always revolved around Tokyo.

(2) I would like to focus my talk on the role of NGOs.

(3) Protectionist pressure is rapidly rising centering on developed countries.

(4) We plan to form powerful headquarters within the cabinet with the Prime Minister as its head.

(5) Distrust in politics has been spreading mainly among the youth of the country.

(6) Ishin will start its open recruitment campaign of the candidates in which the members of the Policy Study School will play a principal role.

 

 

「~ を中心に」はいろいろな国際会議でもっともよく使われる表現のひとつである。今朝も新聞を見ていたら、大阪の橋下市長による新党「日本維新の会」の立ち上げに関するトップ記事の中で、用例 (6) のような一節に出会った(読売新聞9月9日)。気をつけて読めば、新聞にこの表現が1度か2度は出てこない日はないだろう。用例 (1) ~ (6) が示すように基本的な意味は変わらないのだが、「~を中心に」の ~ の部分など使われるコンテキストがいろいろと違うそれによって英語表現でも違ったものを使うことが必要あるいは望ましいということになる。どうしたらいいだろうか。

まず「中心に」だから、center という単語をどうしても使いたくなる。その例が訳例 (1)-a と (3) である。とくに (3) の centering on ~  (あるいは in, ときには around も使われる) は意味的にも原文に近く使いやすい。特にあまり考えている余裕のない同時通訳のときなどは、非常に便利でありつい使ってしまう。centering on は正しい表現だし、意味も十分通じるから覚えておくとよい。しかしいわば月並みな表現でもあり、あまり頻繁には使わない方がいい。まして英語は、表現の繰り返しを嫌う言語である。いろいろ違ったいい方を身につけておいた方がいいのはこのためだ。

名詞としては center の代わりに core, focus, heart などが使えるし、動詞形の to center on (in) の代わりには、to focus, to concentrate on さらに訳例 (1)-b のようにto revolve (この場合は、後に続く前置詞はonでなくaround) などがある。もう一つ簡単なのは、「Aを中心に」を A and other … とする手だ。いつでも使えるわけではないが、これが当てはまるケースも多い。副詞を使えば訳例 (5) のように mainly ~ あるいは chiefly, principally などが使えるだろう。訳例 (6) では、principal を形容詞に使ってみた。学習塾などの「塾」は a cram school, a prep school だが、この場合の「政治塾」は固有名詞と考えられるので各語を大文字で始めることにした。

「~を中心に」表現色々

"and [other]"

"centering on/in/around"

"chiefly"

"mainly"

"to concentrate on"

"to focus on"

"to have … as its center"

"to revolve around"

 

次回の表現

次回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「だらしない」です。

少し前に、社会に出ればしっかりしているが、プライベートでは「だらしない」女性のことを「干物女」などと呼んで、それがテレビドラマになったりしていましたが、さてこの言葉、あなたならどう訳しますか?

次回、お楽しみに!

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

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