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第18回「厳しい」

今回の訳せそうで訳せない日本語は、「厳しい」です。

今回も使用される場面が多い分、文脈によって様々な訳し方が出来そうな言葉です。あなたなら英語でどのように表現しますか?

日本語での使用例

(1) 彼は部下に対しては非常に厳しかった。

(2) 彼は家庭ではまったく日本的な夫で、彼自身の父親より厳しかった。

(3) 米国は人権問題などで日本より厳しい対中観を持っている。

(4) 政府の政策は厳しい批判を受けた。

(5) この夏の暑さは厳しい。

(6) 今年の冬は厳しそうだ。

(7) 厳しい現実にぶちあたるだろう。

(8) 内外情勢はきわめて厳しいものと予想されます。

(9) 日本の財政問題は他国に比べて厳しい。

(10) 女性の雇用環境は依然として厳しい。

(11) この大変厳しい経営環境の中で、社員の方々は日々一生懸命に働いてくれており感謝をしております。

訳例

(1) He was very uncompromising with his sub ordinates.

(2) He was a thoroughly traditional Japanese husband at home, stricter than his own father.

(3) The U.S. is more demanding with China than Japan on human rights and other issues.

(4) The government policy met stern criticism.

(5) This summer's heat is intense.

(6) It is going to be severely cold this winter.

(7) You will have to face a harsh reality.

(8) The domestic and international situations are expected to be very hard.

(9) The Japanese fiscal problems are more difficult than those of other countries.

(10) The employment situation for women remains very bleak.

(11) I am grateful to all our employees who have been working very hard day by day in these trying management environments.

 

「厳しい」もこれまでこの欄で取り上げた「素直な」、「うらむ」、「こだわる」などと同じように私たちが日常使うごく普通の日本語表現である。しかしこういうありふれた言葉ほど、いざ英語にするとなると首をかしげることになる。この欄の大きなテーマの一つだが、動詞でも形容詞でもその語単独で英語訳を考えるのはあまり生産的ではない。言葉はあくまでもコンテキストによって意味を持つ。

「厳しい」は大きく分けて3つのコンテキストで使われることが多いようだ。一つは用例 (1) ~ (4) のように、人やその態度などについて、「厳格である」「容赦がない」「近づきがたい」という意味で使われる場合だ。英語としては、strict が一番幅広く当てはまり、stern, demanding も近い。用例 (2) は少し古いが、故 盛田昭夫ソニー会長に関する TIME 誌の記事からの引用である。いわば「逆輸入」で、もともと英語で書かれたものだから安心できる。

用例 (5) ~ (7) は、寒さなどの気候や自然状況などについて使われるもので、後にくる名詞によって harsh environment, intense heat, severe cold のように使い分けられる。したがって、「現実は厳しい」と言う場合は、harsh が当てはまるが、”The real world is not easy.” と逆の言い方をすることもできる。今年の冬は例年以上に寒さうだから、severely cold という表現がちょうどいいだろう。

ところが、最近の国際会議や新聞記事などで遭遇する「厳しい」は、ほとんど用例 (8) ~ (11) のように経済や経営、金融さらには国際関係などについてのものだ。政治家や経済人のスピーチにはこのような「厳しい」がしばしば出てくるからいくつかの英語表現を覚えておくとよい。基本的には difficult, tough が一番近く、だいたいこの2つを覚えておけば用が足りると思うが、用例 (10) の雇用状況などについては、bleak がいいようだ。用例 (11) は、日本航空の再建という難事を成し遂げた稲盛和夫氏のスピーチから取ったものである。非常に厳しい経営状況だったことが想像できるので trying というやや強い表現を使ってみた。
 

「厳しい」表現色々

"austere"

"bleak"

"demanding"

"difficult"

"extraordinary"

"hard"

"harsh"

"intense"

"rigorous"

"ruthless"

"severe"

"stern"

"strict"

"tough"

"trying"

"uncompromising"

 

 

次回の表現

次回の訳せそうで訳せない日本語は、「大事(大切)にする」です。

「そこは大事にするようにいたします」などと言いながらも、日本語でも具体的なその程度がはっきりしなかったりするこの言葉。あなたなら、どう訳しますか?

次回、お楽しみに!

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

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