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第20回「本格的な」

今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「本格的な」です。

本格的な花粉の季節が訪れた際には、苦しんでいる方も多いのではないでしょうか。この言葉、あなたなら英語でどのように表現しますか?

日本語での使用例

(1) 経済は今、緩やかな回復基調にある。われわれは、これを本格的回復にもっていきたい。

(2) 本格的な外国語のボキャブラリーの教授と学習は極めて困難な仕事だ。

(3) 彼は(駆け出しではなく)本格的なプロだ。

(4) 日本では、なかなか本格的な革新政党は育たない。

(5) そろそろ本格的に英語の勉強を始めよう。

(6) あのレストランは、本格的な中華料理を出す。

(7) TPPについては本格的な検討には入らなかった。

訳例

(1) Right now the economy is slowly recovering. We want it to turn into a full-fledged/solid recovery.

(2) The teaching and learning of a full-fledged foreign language vocabulary is an extremely difficult task.

(3) He is a full-fledged professional.

(4) It is difficult for a sound and reliable progressive party to develop in Japan.

(5) I will start studying English in earnest.

(6) That restaurant serves authentic Chinese dishes.

(7) The TPP was touched upon in the meeting (but not fully discussed).

 

 

この言葉も日本語では意味もはっきりしていてあまり混乱はないように思われる。ところがいざ英語にしようとすると、すぐには対応する表現がでてこない。皆さんもこのような経験をされることがよくあると思う。私が「本格的な」の英語訳として最初に覚えたのは full-fledged である。あまり日常的に使う語ではないが、「本格的な」の対応表現としては一般的で使いやすい。訳例 (1) ~ (3) に示す通りだ。しかしいつもこの語が当てはまるとは限らない。これが英語の難しい(あるいは面白い)ところだと思う。full-fledged の同義語は mature であってしたがって「未熟な」、「駆け出しの」に対して「成熟した」、「本格的な」というニュアンスを持つ。用例 / 訳例 (1) は「初期の頼りない」回復ではなく「本格的な」回復という意味で、「しっかりした」、「堅実な」を意味する solid で置き換えることもできる。訳例 (2) も初級者にボキャブラリーを教えることは難しくないが、「本格的な」習得はなかなか大変だ、と「初期」→「成熟」という対比が裏に隠れている

用例 (4) の「本格的」はどんな英訳がいいだろうか。Real, genuine, authentic などが考えられるが、どうもしっくりこない。そこで sound and reliable と2つの形容詞を使ってみた。日本語と英語のように語彙の成り立ちと感覚が違う言葉の間では、1対1の対応ではきちんと表現できない場合がしばしばある。そんな時は英語の形容詞を二つ重ねることが有効である。「本格的に」と副詞的に使う場合は、用例 (5) のように in earnest がよく使われる。Earnestly, seriouslyでもいいだろう。用例 (6) のように料理の場合は「本物の」に近く、authentic が適切だろう。

(7) は最近の用例で、第2次安倍政権が発足した直後に開かれた関係閣僚による会合での討議についての言及である。TPP は大切な案件だが、政府としての対応がまだはっきり決まっていないので「本格的な検討には入らなかった」わけだ。訳例 (7) は、「本格的」という形容詞は使っていないが、このセンテンス全体の英訳として自然で分かりやすい。(  )内は必ずしも必要ない。このように品詞(形容詞なら形容詞)にこだわらないで、言おうとしている内容をより自由に表現しようとするというアプローチは大切だ。
 

「本格的な」表現色々

"authentic"

"full-blown"

"full-fledged"

"full-scale"

"genuine"

"in earnest"

"real"

"serious"

"solid"

"sound and reliable"

 

次回の表現

次回の訳せそうで訳せない日本語は、「軌道に乗る」です。

「景気回復が軌道に乗る」など会議やニュースでもしばしば使われます。あなたなら、どう訳しますか?

次回、お楽しみに!

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

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