今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「反省する」です。
なぜか色々な場面で耳にするこの日本語、あなたなら英語でどのように表現しますか?
日本語での使用例
- はたしてこれでいいのだろうかという反省の気持ちが一時起きました。
- 現時点においてはアメリカはまだ反省が足りません。
- 民主党の菅直人前首相に「反省」の2文字はない。
- 羽田総理が国会で、日本の侵略を深く反省するということを明確に述べられた。
- 内閣改造に関与した人間のひとりとして判断が甘かったことがあったと反省している。
- われわれが見たのは、自分の行為を悔い、反省している父であり、夫でもあるわが国の指導者だ。
訳例
- At one time we reflected on whether what we had been doing was right.
- At this point, the U.S. has not had enough self-examination.
- There is no such thing as “regret” for former Prime Minister Naoto Kan .
- Prime Minister Hata clearly mentioned in the diet that he deeply deplored Japan's past aggressions.
- As one of those who were involved in the cabinet reshuffle, I feel responsible for an inaccurate grasp of the situation.
- What we saw was a father, a husband, a leader of our country who was contrite and was sorry for his actions.
解説
日本人は「反省」が好きなようだ。国際会議など公式の場の発言にも「反省」(あるいは「反省する」)という言葉がよく出てくる。従っていつこの言葉が出てきても、状況に応じて適切な英語での表現ができるように用意しておくことが望ましい。
和英辞典を引くと、まず to reflect upon が出ているが、この表現は to meditate on あるいは to think about/over の同義語で、「罪の意識」はほとんどない。To reflect という動詞はもともと「(音や光などを)反射する」という意味で、名詞形の reflection にも「後悔」というニュアンスは含まれないから注意する必要がある。
用例 (1)、(2) は「罪の意識」が薄い用法だ。 用例 (1) は技術開発についての故 盛田昭夫ソニー会長のスピーチの一節だ。この場合は「後悔」という意味はほとんどなく、to reflect upon は適切だと思う。用例 (2) はイラク戦争後のアメリカの政策や行為についてのコメントである。ここで使った self-examination も辞書を見ると the study of one’s own conduct, reasons etc(自らの行動や理性などに着いて考えること)とあり「罪の意識」はあまりない。
用例 (3)、(4)、(5) は「罪の意識」がはっきりある例だ。用例 (3) は福島原発事故についての菅前首相の対応についての記事(産経ニュース、2012年7月20日)からの引用だが、ここでは罪の意識の有無が問われているのだと思う。 英語の regret (動詞あるいは名詞) という語は「罪の意識」がよりはっきりしていて違和感があるかもしれないが、英語訳としては適切だ。それだけ日本語の「反省」は意味の幅が広く曖昧なのだと思う。用例 (4) は中国や韓国などアジア諸国との関係でよく使われる表現なので特にここに掲出した。この場合、動調はto deplore、名詞では remorse が多く使われる。用例 (4) は故 橋本元総理の発言である。
最後に、CNNニュースの表現を引用してみた。「反省する」に当たるのは、to be sorry for というさっぱりした言い方である。「罪の意識」のある「反省」に対応する英語表現として適切かつ分かりやすい。これは、在任中モニカ・ルインスキーとの浮気で苦境に立ったクリントン元大統領についてのコメントだ。クリントン氏はこの「反省」がアメリカ国民に認められたのか、大統領退任後もクリントン財団(The Clinton Foundation)などを通しての国際的な活動が高く評価され、今日ではアメリカで最も尊敬されている人の一人である。
「反省する」表現色々
"to deplore"
"to feel remorse for"
"to feel responsible for"
"to feel/be sorry for"
"to grieve over"
"to meditate on"
"to reflect on/upon"
"to regret"
"to repent"
"to think over/about"
次回の表現
次回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「どんどん」です。
太鼓を「どんどん」と勢い良く叩くなどの擬音語の他、「どんどん」と勢いよく物事が進む擬態語としても使われるこの言葉、あなたならどう訳しますか?
次回、お楽しみに!
※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。
小松達也
サイマル・アカデミー創設者
1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。
