今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「地味な」です。
少しずつ暖かくなってきて、「地味な」服装から明るい服装に変えてみたくなる昨今ですが、この言葉、あなたなら英語でどのように表現しますか?
日本語での使用例
- 地味な人 / 人柄
- 地味なネクタイ / 服装
- 普段は派手で個性的な格好をしている学生も就活の時は地味な服装をしている。
- 大学卒業者は現場の地味な仕事を嫌う。
- 彼は地味で目立たないけど、職場では不可欠な存在だ。
- イチロー以外は地味な選手ばかりだ。
訳例
- a low-key person / a quiet person / a dull person
- a conservative tie / a plain tie
- Students who wear loud and offbeat clothes at other times are seen dressed conservatively during job-hunting periods.
- University graduates tend to dislike the unglamorous work at factories.
- Though quiet and inconspicuous, he is indispensable in the workplace.
- Other than Ichiro, the players don't have any particular flair.
解説
このような表現の英語訳を考えるときに最初に私がするのはその正確な意味を知ることだ。意味は普通日本語で考えるから、日本語の辞書を引くことになる。「地味な」を広辞苑で見てみるとまず「服装や性格が派手でないこと」とある。「地味な」という語を直接定義するのではなく、反対語である「派手な」を否定しているわけだ。これと同じことを英語でもやってみたのが訳例 (4) と (5) である。それぞれ glamorous(派手な)、conspicuous(目立つ)という語に un-, in- をつけて否定している。そして この二つはともに「地味な」の英語表現として適切である。先日あるパーティーで、来賓の政治家が「政治というのは地味な仕事ですよ」と言っていたが、この例など an unglamorous job が適当だろう。
職場に、ニューヨークで買ったやや派手な花柄のネクタイをしていったことがある。外国人の女性社員がそれを見て、“You are wearing a wild tie today, Mr. Komatsu. ” と言った。この場合の wild は「派手な」「奇抜な」に当たる。そのとき私は「地味な」という適切な英語の表現がとっさに思い浮かばず、“This is subdued in New York.”(これでもニューヨークでは地味なんだよ)と答えた。用例 (2) のように、ネクタイや服のような身につけるものの場合には、conservative がぴったりだ。conservative は、政治あるいは思想などの面で「保守的な」という意味に使われることが多いが、こうした用法もある。plain は「さっぱりした」「飾り気のない」という意味で、plain and simple とするともっとはっきりする。
quiet は音だけでなく、色、服装、人柄などについても unobtrusive(目立たない)、not showy という意味でも使われる。訳例 (4) の loud が「派手な」、「けばけばしい」という意味なのと同じだ。「地味な人」の dull には「退屈な」というニュアンスがあるから注意。そういえば plain にも not good-looking という意味があるから、人や容貌などについては使わないほうがいいようだ。
この点、価値的に中立なのが low-key(あるいは low-keyed )である。a low-key meeting(内輪の、ちょっとしたミーティング)のようにいろいろな場合に使えて便利である。 low-profile もほぼ同じニュアンスだ。用例 (6) は、イチローが在籍していたころのプロ野球オリックスのことである。やや古い用例だが、英字新聞の記事からとったもので flair(特別な才能)という面白い語を使っているので採用した。He has a flair for languages(彼は言葉の才能がある)のように使える。
「地味な」表現色々
"common"
"conservative"
"dull"
"inconspicuous"
"low-key[ed]"
"low-profile"
"modest"
"plain"
"quiet"
"reserved"
"restrained"
"simple"
"subdued"
"unglamorous"
"unpretentious"
"without flair"
次回の表現
次回の訳せそうで訳せない日本語は、「行きづまる」です。
政治やビジネスの場でも使われることの多いこの言葉。あなたなら、どう訳しますか?
次回、お楽しみに!
※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。
小松達也
サイマル・アカデミー創設者
1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。
